坂口志文先生(大阪大学特任教授)は、制御性T細胞の研究で、2025年ノーベル生理学・医学賞を受賞されました。

1. 制御性T細胞は、免疫応答を抑制・調整する役割を持つT細胞の一群です。

  • 免疫系は病原体(ウイルス・細菌など)を攻撃し、また腫瘍細胞を排除する働きを持っています。
  • そのまま活性化が続くと、自分自身の正常な組織を攻撃してしまう「自己免疫疾患」が起きたり、炎症が過剰になったりします。
  • 制御性T細胞は「免疫システムのブレーキ役/安全装置」役割を果たし、自分自身 (自己)を攻撃しないように、免疫反応が過剰にならないように制御しています。

    ■免疫細胞(アクセル役)  ■制御性T細胞(ブレーキ役)
    ①がんを攻撃する免疫(キラーT細胞)は、アクセル役と呼ばれ、がん細胞を攻撃します。
    ②がん細胞は免疫に攻撃されないように、狡猾にずるいことをします。ブレーキ役の制御性T細胞を呼び寄せるのです。                       
    ③がん細胞は生き延びる為に制御性T細胞を呼んで、免疫細胞(アクセル役)の働き(殺傷力)が弱まり、がん細胞は生き延びます。
    ④がん細胞・免疫細胞・制御性T細胞は、すべて自分の体から作られている家族のようなもので、連携しているのです。

2. なぜ重要か

■制御性T細胞の発見・理解が重要となる理由は、主に以下の通りです。

  • 自己免疫疾患(1型糖尿病、関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど)は、免疫系が誤って自身の組織を攻撃して起こります。
    制御性T細胞の機構を理解することは、こうした病気の原因・治療に直結します。
  • 腫瘍(がん)の環境では、制御性T細胞が過剰にあることで、免疫系ががん細胞を攻撃できず、がんが免疫から逃れるというメカニズムも明らかになっています。制御性T細胞を制御することは、がん免疫療法にも関係します。
  • 移植医療 (臓器移植など)では、免疫が新しい臓器を「異物」として攻撃してしまう拒絶反応が問題になります。制御性T細胞の働きを利用して、拒絶反応を抑える可能性があります。
  • 制御性T細胞の研究は「免疫をオンにする」「免疫をオフにする」だけでなく「免疫のバランスをとる」鍵を握っています。

3. 医療応用・可能性

■制御性T細胞の知見は、実際に治療応用の場面も広がっています。以下は主な応用方向です。

  • 自己免疫疾患治療:制御性T細胞の数や機能が低下したり、不十分だったりすることが、自己免疫疾患の病態に関与していると考えられています。
    制御性T細胞を増やす、活性化することで、自分の組織への攻撃を抑える治療が、検討されています。
  • 移植医療:臓器・骨髄移植において、免疫拒絶反応を抑える為に、制御性T細胞を活用する研究があります。
    制御性T細胞を強化することで、免疫抑制剤を少なくして、移植成績を改善する可能性があります。
  • がん免疫療法:腫瘍(がん)は、制御性T細胞を動員して免疫系から逃れており、制御性T細胞を減らす・機能を抑えることで、抗腫瘍免疫を高める戦略が成り立ちます。

4.今後の課題・注意点

■興味深い分野です。実用化・安全性・理解すべき点も多くあります。

  • 制御性T細胞を「増やす/使う」治療では、過剰に免疫を抑えると感染症やがんのリスクが上がる可能性があります。
  • 逆に「抑える/除去する」治療(がん免疫 )では、自身の組織を攻撃してしまう自己免疫状態の誘導リスクがあります。
  • 臨床応用での「どの患者に」「どのタイミングで」「どのくらい使うか/抑えるか」の最適化が必要です。

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